| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-084
樹木の樹冠最下部(HB)より下と樹冠内とでは幹の形状が違うことが知られている.一方,樹冠の枯れ上がり方は群落内の個体間で異なる.しかし,枯れ上がり方の個体間の違いは先行研究の幹の形状形成の理論では実質的に無視されている.個体の成長に伴う樹冠の枯れ上がりと幹の部位別の太りとの関係から幹の形状形成過程を理解するため,詳細な測定項目を含むヒノキ(Chamaecyparis obtusa)林の長期(20年)毎木調査データを用いた解析を行った.このデータは、調査区の全個体に対して樹高・HB・高さ1mおきの幹周囲長等を毎年記録したものである。
幹を「樹冠内」と「HB以下」の部分とに分けて行った解析から,幹の形状を表す指数は個体サイズや樹齢にはあまり関係なく,「樹冠内」か「HB以下」かによってほぼ決まっている事を確かめた.また,調査初年(林齢21年)の優占個体の樹冠長は樹齢とともに長くなる傾向があったが,調査期間中に枯死した個体の樹冠長は枯死前に樹冠の枯れ上がりによって短くなる傾向があった.さらに,一般化線形混合モデルによる解析から,同じ年の同一個体の幹では, HB以下の部分の直径成長速度は高さによらずほぼ同じであり,かつHB以下の直径成長速度は優占個体ほど大きい傾向があることがわかった.この結果は,(1)今まで樹冠内に存在した幹の一部が樹冠の枯れ上がりによって樹冠下に露出すると,そこの直径成長パターンが変化してHBより下の部分と同調する(同じになる)ようになること,(2)HB以下の部分の直径成長速度が同じでも,幹の形状形成の履歴や樹冠の枯れ上がり方の違いがその後の幹の形状に大きく影響すること,を示唆している.この2つを仮定に入れた幹成長シミュレーションから,既存の理論に基づく幹形状形成パターンが近似的に再現できることを示した.