| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-128
東シベリアのヤクーツク周辺では、2004年以降の冬の積雪、夏の降水の異常増加によって、永久凍土表層の融解が進行して活動層が厚くなると同時に、活動層内が急激に湿潤化した。この現象に伴い、カラマツ(Larix cajanderi Mayr.)を主要樹種とする北方林(タイガ)では、数年に及ぶ過湿土壌の影響を受けて、枯死する個体が目立ち始めている。本研究では、境界層タワーのあるスパスカヤパッド実験林において、湿潤化によるカラマツの撹乱後の蒸散活動の変化を明らかにするため、2006年(撹乱顕在前)と2009年(顕在後)にGranier法による樹液流測定を実施し、各個体の気孔コンダクタンスの変化を調べた。50x50mの地形測量と活動層厚分布から、活動層が厚くなり、土壌水分が過飽和に達していると考えられるのは、微地形で凹地、谷形状を示す地域であり、展葉が著しく抑制された樹高15m以上のカラマツ個体はそのような地形内に選択的に分布していた。樹液流測定したカラマツ15個体に対し、アロメトリー式から撹乱前の葉面積を仮定した単位葉面積あたりの蒸散量を基に、飽差が1kPaでの各個体の気孔コンダクタンスを算定した。その結果、2006年と2009年でコンダクタンスにほぼ変化が見られない個体がある一方で、2009年に著しくコンダクタンスが落ちた個体が認められた。現地調査によって、コンダクタンスの変化が大きい個体は葉面積が減少していることが確認された。また、タワー上と林床での渦相関法に基づく蒸発散率(蒸発散量/可能蒸発量)によると、2005~2008年で林床では変化が無い一方で、群落上では2007、2008年で減少を示した。これらの結果は、近年のシベリアでは、湿潤環境でありながら、森林からの蒸散量が落ちていることを意味している。