| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-152
台風は東アジアの森林生態系における主要な撹乱要因であり,しばしば壊滅的な強風被害を与えてきた。しかし,台風による撹乱にともなう森林生態系の炭素収支変化を定量的に評価した研究例はほとんどない。本研究では,2004年台風18号により壊滅的な被害を受けた北海道の苫小牧国有林にある約50年生のカラマツ林風倒害跡地を対象として,チャンバー法と生態学的手法により,炭素蓄積量およびCO2フラックスの測定を行なった。なお,風倒木は搬出され,枝や寝返りした切株などはそのまま残された。また,撹乱後の植生はエゾイチゴが優占するようになった。
自動開閉型の大型チャンバーシステムを用いて,2006~2008年の無積雪期間に純生態系生産量(NEP)を連続観測した。3年間の共通観測期間(4.5ヵ月間)における(総光合成量)GPPと(生態系呼吸量)REの積算値は,それぞれ411±27,489±5 gC m-2となった。また,撹乱前3年間(2001~2003年)の渦相関法による測定結果と比較すると,GPPは64%,REは51%の減少となった。その結果,積算NEPは159±57 gC m-2から-80±30 gC m-2に減少した。また,2007年の年積算値を推定したところ,NEPは-31 gC m-2 y-1となった。さらに切株からのCO2放出を考慮すると,年積算NEPは-91 gC m-2 y-1と推定された。
刈取調査より求めた撹乱後の地上部純一次生産量(NPPA)の平均値は145 gC m-2 y-1だった。切株からのCO2放出を考慮すると,生態学的手法による2007年の年積算NEPは-22 gC m-2 y-1となった。これらの結果より,台風による撹乱にともない,カラマツ林はCO2シンクから弱いソースへ変化したことが明らかとなった。