| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-174

ユスリカのミトコンドリアDNA遺伝子塩基配列収集とその活用による種類相・系統地理調査の試み

*高村健二, 上野隆平, 今藤夏子(国立環境研・生物)

ユスリカは、ハエカ目の昆虫の1科にあたる分類群にすぎないが、その幼虫・蛹段階を主として水中ですごし、富栄養化水域や重金属汚染水域で大発生する。大発生時には水中だけでなく、沿岸陸上域でも優占する。ユスリカにかぎらず、生物の調査研究においては正確な種同定が欠かせないが、ユスリカの分類体系はオス成虫の形態的特徴にもとづいてきたため、メス成虫・蛹・幼虫の種同定は困難であった。その結果、河川・湖沼の底生動物相調査報告では、ユスリカ類として現存量が一括して報告されることが多い。しかし、種同定を行った研究では、種による強い水質選好性が明らかにされており、水質指標としても優れていると考えられる。つまり、湖沼・河川の環境変化にともなう生物相変化を調査する上で、ユスリカの分類同定を正確かつ迅速に行うことは有意義であると考えられる。そこで、本研究ではDNAバーコーディングの方法論を採用して、ミトコンドリアDNA遺伝子の塩基配列情報によるユスリカ分類の正確化・迅速化を進めることを企図した。

国立環境研では、前身の国立公害研究所時代の1970年代から湖沼・河川におけるユスリカの生息状況を各種の汚染と関連づけて調査してきた。その中で、ユスリカの同定・分類のみならず新種記載も進めた結果、国内のユスリカ研究者の努力ともあいまって、現在では1000種以上のユスリカが国内で報告されている。この蓄積の上にたって、本研究ではユスリカ成虫・幼虫の標本を形態に即して種同定するとともに、種毎のミトコンドリアDNA遺伝子の塩基配列情報を決定し、同定・分類のための遺伝的な基準を整備しつつある。また、それらの基準を活用して、湖沼・河川などで行われている長期観測の信頼性・継続性を強化する手法の検討を目指している。


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