| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-185
森林の林床に形成される実生バンクは、森林の更新に重要な役割をはたしている。いくつかの樹種が定着基質として分解途中の倒木を好むことが知られており、養分の乏しい倒木上への定着には菌根菌が重要な働きをしていると考えられている。演者のこれまでの研究により、リョウブの実生は、分解の進んだアカマツ倒木上に特異的に生育し、その実生密度は、倒木の腐朽型(木材腐朽菌の材分解により決定される材の物理化学性)の違いに強く影響されることがわかった。本研究では、地上あるいは異なる腐朽型の倒木上で菌根菌の感染率が異なることが実生密度の差をもたらしているとの仮説を検証することを目的に調査を行った。
調査地は、東京都東大和市のコナラ二次林である。2010年9月、調査地の地上およびアカマツ倒木上(直径>10cm)から、計29個体のリョウブ実生(高さ<50cm)を採取し、シュート長および菌根菌の感染率を個体ごとに記録した。結果、リョウブの根には、Paris型のアーバスキュラー菌根に特徴的な菌糸コイルが観察された。菌糸コイルの感染率は、0〜96%の範囲でばらつき、地上および腐朽型の異なる倒木上に生育していた実生の間で有意な違いは見られなかった。このことから、材の腐朽型の違いは実生の菌根菌感染率には大きな影響を与えていないことが示唆された。倒木上の実生においては、菌糸コイルの感染率とシュート長の間に有意な正の相関関係が見られたが、地上の実生ではシュート長に関わらず菌糸コイルの感染率は一定だった。倒木上および地上の実生におけるこのような違いは、地上にくらべ養分の乏しい倒木上で、実生の生長に菌根菌の感染がより重要であることを示唆している。