| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-188

光合成細菌の貧栄養環境下での生残:種による違い

菅野菜々子,春田伸,*松浦克美(首都大・生命)

細菌は自然界で貧栄養条件や栄養源枯渇条件に曝されることも多く,そのような条件での生残力が競争に影響すると考えられる.紅色光合成細菌は光エネルギーでATPを合成するので,飢餓条件下でも光条件で長く生残できるという報告がある.本研究では,複数の紅色光合成細菌を用いて,飢餓条件下での生残性を明暗条件下で比較し,エネルギー供給と生残性との関係を検討した.

土壌や淡水域で広く観察できる3種の光合成細菌,Rhodopseudomonas palustris, Rhodospirillum rubrum, Rhodobacter sphaeroidesを使用した.各株の細胞を飢餓条件に移行させ,明暗条件下それぞれでの生残をコロニー形成能 (CFU) で評価した.

すべての株において暗条件下よりも明条件下で長く生残したが,暗条件下における生残性は種により大きく異なっていた.暗条件下でCFUが1/1,000まで低下する日数はR. palustrisで飢餓後20~25日,R. sphaeroides で9~12日,R. rubrumで2日であった. ATP量を測定したところ,明条件下ではCFUとともにATP量も維持されていた.暗条件下ではR. palustrisでCFUとATP量の変化に相関性が見られたが,R. rubrumではCFUは急速に低下するがATP量の低下は緩やかであった.これは飢餓生残とエネルギー量との関係が種によって異なり,R. palustrisでは増殖能とATPがほぼ同時に失われるのに対し,R. rubrumではATP量が低下し始めて増殖能が失われても細胞内にATPが一定期間残っていることを示唆している.

自然界で細菌は栄養源の枯渇度が異なる様々な環境に生息していると考えられる.紅色光合成細菌の飢餓生残様式が種により異なった原因は,それぞれの種が適応してきた環境条件が異なることが考えられた.


日本生態学会