| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-196
大型草食獣による採食は、植物群落への影響を介して動物の群集構造にも影響することが知られている。大型草食獣が動物群集に与える影響の方向性や強さは様々な状況で変化する。このような状況依存性をもたらす一つの要因として、森林の生産性が考えられる。そこで、本研究ではシカ密度と森林の生産性が造網性クモ類に与える影響を、主にこれら2つの要因の交互作用効果に注目して明らかにした。本研究では造網性クモを調査対象動物として扱っている。造網性クモの種数や個体数は、主に餌の資源量と網を支える物理的な構造の資源量に制限されていることが知られている。また、餌の資源量と足場の資源量を比較的簡単に区別して評価することが可能なため、シカが餌または足場のどちらを介して影響を及ぼしているかというメカニズムを明らかにすることができると考えられる。
北海道大学苫小牧研究林ではエゾシカの生息が確認されている。ここではシカを高密度に維持する囲い込み区とシカの侵入を除いた排除区を設置することにより、シカの密度を高、低(自然密度)、ゼロの3段階に設定した実験区が設けられている。さらに、各実験区には林冠木の間伐により林床の光環境を操作したプロット(以下非伐採区、伐採区)が複数設置されている。これらのプロットを対象に2010年7月~2010年9月の間に造網性クモ、構造物量、餌の資源量の調査を行った。
複数の造網性クモ種の個体数で、シカ密度と生産性の交互作用効果が認められた。こうした交互作用は、非伐採区と伐採区でクモの制限要因となる足場の要素が異なっていたことによって説明できると考えられた。以上のことから、森林の生産性を考慮することで、シカが森林内の動物群集に与える影響をより深く説明、予測することが可能になると考えられた。