| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-197

ため池のイトトンボ類の分布を決める要因

*関崎悠一郎,須田真一(東大院・農),角谷 拓(国環研),鷲谷いづみ(東大院・農)

ため池は、比較的安定な止水域として里地里山の水生生物のハビタットとなっているが、現在ではその劣化が著しい。ため池でみられる外来生物のうちコイは、水草を減少させるため、水草を産卵基質やハビタットとして利用するイトトンボに間接的な影響をもたらす可能性がある。

本研究では、現在でも比較的良好なイトトンボのハビタットとしてのため池が多く残されていると考えられる北上川水系磐井川の3支流(久保川・栃倉川・市野々川)の流域において、イトトンボ類の分布に影響する要因を、特にコイの直接・間接的影響に焦点をあてて検討した。

当該地域のため池56ヶ所において、2008年4月~2010年7月に調査を行い、イトトンボ成虫の出現頻度と、周辺の森林面積と池密度、コイおよびウシガエルの生息の有無、池に隣接する林縁の有無、水草の被度などを記録し、出現した種ごとの出現頻度と諸要因との関係を分析した。また、コイによる水草被度を介した間接効果とウシガエルによる池密度を介した間接効果についても定量化を行なった。

分析の結果、種ごとに認められた傾向は、概ね既知の種生態に合致した。全種共通の傾向としては、水草被度が有意な正の効果を示し、水草被度にはコイの存在が有意な負の効果を示した。ウシガエルの存在に対する池密度の影響が有意な正の効果を示した一方で、コイとウシガエルのイトトンボへの直接効果は有意ではなかった。

これらの結果から、調査地域においてイトトンボに主に影響する要因は、ため池内と隣接する環境であることが示された。またコイは、直接捕食よりも水草を減少させる生態系エンジニアとしての効果を通じて、イトトンボに間接的な負の影響をもたらしていることが示唆された。


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