| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-213
食物網のなかでの種間相互作用には、直接効果と間接効果の二種類が存在し、これら二つの総合効果を純効果と呼ぶ。近年、シカ類の個体数増加は、直接効果や間接効果により、植生だけでなく無脊椎動物などの動物群集にまで影響を及ぼすことが報告されている。これらシカ類の動物群集への影響は、それらを餌資源とする捕食者にも影響を及ぼすことが予想されるものの、それらについてはほとんど解明されていない。著者らは、栃木県の奥日光地域において、シカと中型食肉類であるタヌキの種間相互作用について調査を行なってきた。これまでの調査の結果、本地域のシカは、タヌキに対して、3月から5月には自らの死体を供給するという直接効果を、5月から11月には昆虫類とミミズ類(タヌキの餌資源)を増加させるという間接効果を与えていることが明らかとなっている。では、これら餌資源の増加はタヌキの個体群にまで影響を及ぼしているのだろうか?
これらについて明らかにするために、本地域で行なわれているビームライト調査の結果(2002年~2009年)から、防鹿柵外(シカの密度が高く、タヌキの餌資源が増加している地域)と柵内(シカの密度が低く、影響が小さい地域)におけるタヌキの目撃率を比較した。その結果、タヌキの目撃率は、柵内よりも柵外で有意に高かった。また、シカが増加する以前に同ルート上で行われたビームライト調査では、タヌキは目撃されていないことから、シカ増加以前のタヌキの密度には両地域(現在の柵の内外)で大きな差はなかったと考えられる。このことは、シカ増加後にタヌキが増加した可能性を示している。
以上のことから、シカは正の直接効果と間接効果を通じて、タヌキに正の純効果を及ぼしていると結論した。