| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-216
沿岸生態系において非常に高い基礎生性をもつ河口干潟域では、ベントスのみならず浮遊生物の密度も周囲の海域より高いことが知られている。例えば、浮遊性の微小原生動物である有鐘繊毛虫の密度は沿岸・河口域で高く、それらは沿岸・河口域のカイアシ類などの動物プランクトンやマガキにとって重要な餌資源であると考えられている。有鐘繊毛虫はカップ型または筒型の殻(ロリカ)を持ち、その形態によって分類されてきた。しかし形態による分類は分子生物学的分類と一致しないことが近年明らかとなりつつある。有鐘繊毛虫では殻の口径が大きいほど多様な餌を捕集しやすく、カイアシ類にも捕食されにくい。しかし殻の口径サイズが大きい種では、増殖速度が低くなる傾向がある。
本研究では、河口干潟域における有鐘繊毛虫の動態に及ぼす影響を明らかにするとともに、それら要因と殻の形態との関係を調べることを目的に行った。
調査は仙台湾の広浦において2010年7月3日~8月2日までの期間、2日に位階の間隔で行った。チューブサンプラ―を用いて全層から有鐘繊毛虫を採集した。その他に、水温、塩分、pH、Chl a 濃度(>20 µm、2-20 µm、<2 µm)、バクテリア密度、従属栄養鞭毛虫密度、甲殻類プランクトン組成を測定した。有鐘繊毛虫の種組成はDNA解析 (SSrRNA)により調べた。
その結果、調査期間の前半は小型 (<口径20 µm)の有鐘繊毛虫が、期間の後半は中型 (口径20-40 µm)の有鐘繊毛虫が優占した。DNA解析の結果から、これらは異なる種であることが分かった。この種組成が変化した時期には餌や水質には変化が見られなかったが、カイアシ類の組成が変化していたことから、有鐘繊毛虫の種組成に捕食者が影響していることが伺われた。