| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-219

精度か? スピードか? ― マルハナバチの空間移動におけるトレードオフと学習環境の関係

*大橋一晴(筑波大・生命環境科学), Thomson, J.D.(トロント大学生態進化生物学科)

多くの動物は、散在するパッチのあいだを移動しながら餌をあつめる際、しばしば環状のルート「トラップライン」を巡回することで収穫効率を高めようとする。演者らはこれまでの研究で、花蜜をあつめるマルハナバチが、個々の植物個体(株=パッチ)の位置をおぼえてトラップラインをたどる能力をもつものの、隣接する株をむすぶルートがジグザグを描くような配置では、短距離の移動にたいする生まれつきの好みにじゃまされ、いくら経験を積んでもトラップラインをつくれないことを発見した。では、実際にこうした「あつかいにくい」配置に出くわしたとき、ハチはどのように対処するのだろうか?また、このような配置でも、ランドマーク(目印)がたくさんあれば、ハチはトラップラインをたどることができるのだろうか?

上記の疑問に答えるため、マルハナバチを用いた室内実験をおこなったところ、あつかいにくい配置では、ハチはトラップライン行動をあきらめ、代わりに株間をすばやく移動して収穫効率を高めようとすることがわかった。また、こうした配置ではランドマークを足してもハチはトラップラインをたどるようにはならず、代わりにスピードを高める戦術への転換を早めるようになった。また、ランドマークが少ないときにくらべ、ハチはたとえトラップライン行動をあきらめた後でも、低いスピードしか達成できないことがわかった。これらの結果は、動物の空間移動には「精度とスピードのトレードオフ」が存在すること、また、ランドマークの増加は配置のすみやかな把握には役立つものの、そのあつかいにくさを相殺するほどの効果はもたず、むしろ記憶の呼び出しや視界との照合にかかる手間をふやしてしまうことなどを示唆する。


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