| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-226
採食効率に及ぼす他個体の影響を知ることは、動物の集団生活に関わる利益・不利益を理解する上で重要である。多くの種がメンバーの安定した群れを形成する霊長類においては、食物パッチを共有する個体数(採食グループサイズ)と採食効率の関係が調べられてきた。しかし、一貫した結果が得られず、採食効率に及ぼす他個体の影響について統合的な説明がなされてこなかった。
一般に、他個体の存在は採食効率に対して、捕食者に対する警戒時間の短縮による正の影響や、採食競合による負の影響をもたらす。メンバーの安定した群れ生活では、採食グループサイズが多いと、群れに追随するための周囲の見回しが減少し、それによっても採食効率が向上する。発表者らによって、採食グループサイズと採食効率の関係は、これら正・負の影響のバランスによって決まることが明らかになっている。採食競合は食物環境(食物パッチの質・パッチの分布様式など)によっても大きさが変化することが知られている。したがって、採食グループサイズと採食速度の関係は食物環境によって異なることが予測される。
本研究では、宮城県・金華山島に生息する野生ニホンザルを対象として、様々な季節の主要食物(12品目)ごとに採食グループサイズと採食効率の関係を把握し、食物環境(食物品目の特徴)がこの関係に及ぼす影響を検討した。その結果、採食グループサイズと採食速度の関係は食物環境によって説明された。特に、パッチ内の食物密度が高いほど、採食グループサイズと採食速度の間に正の関係が見られる確率が高く、逆も同様であった。採食競合の大きさによって、採食グループサイズの増加による正・負の影響のバランスが異なるためだと考えられた。これらの結果から、採食効率に及ぼす他個体の影響の統合的な理解が可能になるだろう。