| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-234
昆虫の繁栄をもたらした大きな要因の1つに飛翔能力の獲得が挙げられるが、飛翔には多大なコストやリスクも伴う。そのため、飛翔能力は二次的に失われる例も多く、翅多型を示す昆虫種が多く知られる。翅多型は発生過程の大幅な改変を伴うため、生態学的のみならず、発生生物学的にも非常に興味深い現象である。
アブラムシは,季節変動にあわせて様々な表現型を示す複雑なライフサイクルを持った半翅目昆虫である。対象種エンドウヒゲナガアブラムシAcyrthosiphon pisumは、春から秋にかけて胎生単為生殖を行うが、晩秋になると有性世代を産出し、卵により越冬する。単為生殖を行う雌(胎生雌)は、環境要因に依存し有翅・無翅が切り替わる翅多型(wing polyphenism)を示し、雄は遺伝情報により翅型が決定される翅多型(genetic wing polymorphism)を示す。また、卵から孵化した雌(幹母)と卵生雌はすべて無翅型となる。このように本種は1年のライフサイクルの中で様々な有翅・無翅多型を示す。
演者らは、均一なゲノムセットを持ちながら異なる翅形成様式を示す本種は、翅多型の適応的意義や進化を考察するうえで最適な材料であると考え、各生活型(胎生雌、雄、幹母、卵生雌)における飛翔器官の発達・退縮様式を組織形態学的に詳細に観察した。その結果、各々の無翅型では,飛翔器官が失われる発生過程に差違が見られることを発見した。また、有翅/無翅雄の成長期間の比較により,雄の無翅化には、幼虫齢期の短縮という適応的意義があること見出した。これらの結果を踏まえ、本発表においてはエンドウヒゲナガアブラムシにおける翅多型の生態学的意義と進化発生学的背景について議論したい。