| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P1-240
種内の個体群間で見られる生活史形質の多様性は、それぞれの生息環境に適応した結果として生じうる。また、異なった系統に位置する種間であっても、生息環境が類似していると生活史形質の応答様式も類似する場合がある。したがって、環境勾配に対する生活史形質の応答様式は、同所的に分布する種間で同調する可能性があるだろう。
北海道の河川にはイワナとヤマメが広く同所的に分布する。両種ともに、遡河回遊型の生活史を持ち、生まれた川で数年を過ごした後、海へ索餌回遊する。しかし、雄の一部は、海へ回遊することなく、生まれた川で一生を過ごす残留型となる。もし、回遊のコストが高まるような状況に置かれた場合、残留型の適応度が相対的に高まり、海へ回遊せずに小さいサイズで成熟を開始する(=残留型を選択する)方が適応的であるだろう。そして、種間で回遊のコストを規定する要因が共通するならば、両種の成熟開始サイズの変異性は同調すると予測される。本研究では、流域スケールでイワナとヤマメの雄の成熟開始サイズを調べ、支流間変異と環境パラメータとの相関および種間の同調性を検討した。
両種ともに成熟率は、体サイズおよび年齢が増加するに従い高まったが、そのパターンは支流間で有意に異なった。成熟開始サイズは種間で同調した変異性を示し、両種ともに成熟開始サイズは海からの距離と負の相関を示した。つまり、イワナとヤマメともに、海から離れた場所に位置する支流ほど成熟開始サイズが小さい、という共通の傾向が認められた。これは、回遊のコストの増加に伴い、成熟開始サイズを小さくし、残留型を選択するように適応した結果であると考えられた。また、成熟開始サイズの支流間変異はヤマメの方がイワナよりも大きく、局所適応の程度はヤマメの方がイワナよりも強いことが示唆された。