| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-242

出生前に条件づけられている代替発生軌道

*桑野真也(北大院・水産), 岸田治(北大・北方生物圏FSC) , 西村欣也(北大院・水産科学)

環境に応じて適合した表現型を示す生物の表現型可塑性は、私たちに適応を想起させ、表現型を生じさせるメカニズムや反応規範が、なぜ・どのように形作られたのかについて興味を抱かせる。表現型は生物的・非生物的な外的環境に応答することに加え、個体の内的状態に影響される。また、外的環境への応答の仕方が生物の内的状態により調整されることがある。栄養状態といった内的状態は個体の生活史を通じて作られるほか、個体発生に先立って既に異なりうる。

同時・同所的に観察される可塑性による多型は、同一の反応規範が個体の社会的立場の違い、あるいは個体間の内的状態のばらつきに応じた結果として解釈できる。我々は、生物を形作る発生軌道の反応規範そのものが、個体発生に先立つ内的状態により修飾され、個体ごとに異なる可能性に注目した。

エゾサンショウウオの幼生は、混み合うと同一集団中に顎が顕著に発達した「大口型」へと向かう発生軌道をとる個体が生じ集団が二型化する、「二型化発生反応規範」を有する。大口型はより大きな同種や他種の捕食を可能にする。他の多くの両生類同様、エゾサンショウウオには顕著な卵サイズバリエーションがある。

我々は、卵サイズバリエーションが異なる親由来の卵の間に存在し、卵サイズによって幼生の初期個体発生の軌道選択の幅が異なることを見出した。孵化直後、大卵由来の個体ほど体が大きく、捕食開始前の発生段階で既に大口型に近い形をしていた。大口型への発生を導く外部環境刺激を一律に与える誘導実験において、大卵由来の個体ほど一貫して顎をより大きくする発生軌道をとった。このことは、卵サイズという発生に先立つ形質によって外部環境刺激に対する発生軌道の反応規範が調整され、集団内に生じる二型パターンを作り出していることを示唆する。


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