| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-042
長野県と山梨県の県境に位置する仙丈ヶ岳(3033m)は,貴重な高山植物が数多く自生している。南アルプス全域で1990年代末頃からニホンジカによる食害が進行し,高山植生が急速に失われている。高山植生保全のため,南アルプス食害対策協議会を設立し,2008年から仙丈ケ岳の馬ノ背ヒュッテ周辺に防鹿柵を設置した。2009年の調査では,マルバダケブキを中心に植被率と植物体量が増加し,ミヤマキンポウゲやタカネスイバなどの開花が数多く確認され,柵の設置効果がみられた。一方,柵内ではマルバダケブキが群落全体を被陰するケースが多く見られ,他の高山植物の生育を妨げている可能性が考えられた。そこで,2009年にマルバダケブキの刈り取り管理を行ったところ,他の区ではまったく見られなかったミヤマシシウドとシラネセンキュウの生育が確認された。2010年は前年と同様に柵内外の植生のモニタリング調査を実施するとともに,マルバダケブキの刈り取り効果を調査した。
2010年の植被率は柵外で35-70%,柵内で55-100%であり,群落高は柵外で33-115cm,柵内で30-105cmとなった。開花・結実率は柵外では42.5%,柵内では62.4%であり,柵内外ともに2008年,2009年より増加した。ミヤマカラマツ,ミヤマハタザオ,ネバリノギラン,センジョウアザミは2010年に開花・結実がはじめて確認された。タカネノガリヤス,シラネセンキュウ,ミヤマアキノキリンソウ,ハクサンフウロは2009年より開花・結実数が増加した。刈り取り区の出現種数は合計15種,刈り取り前の6~10種から増加し,ホソバトリカブトとタカネヨモギが新たに確認された。一方,前年に地上部全体を完全に刈り取ったマルバダケブキは,翌年草丈36cm,被度33%を示し,草丈はやや小さくなるが,シュートの回復が極めて早いことが認められた。