| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-074
山梨県富士山北西麓には採草地として利用されてきた半自然草地が広がっていたが、1954年以降の造林活動によりその多くは樹林化した。しかし、上ノ原草原は、植栽木の生育が悪かったため樹林化せず、43haの草原が残された。現在、この草原は、スズサイコやヤマキチョウなどの絶滅危惧種を含む多くの草原性生物が確認され、草原性生物の多様性を支える希少な草原となっているが、管理放棄に伴う遷移が進行して木本の侵入が見られる箇所もあり、将来草原が消失してしまう可能性もある。本研究では、上ノ原草原内に多く侵入している低木種クロツバラの分布やオルソフォト画像から判別した高木の分布と、管理履歴や地形との対応を調べ、上ノ原草原における樹林化の過程を把握することで、草原を維持するための指針を示すことを目指した。
調査は43haの草原及び周辺の森林を含む1×1㎞の範囲で行った。クロツバラの分布は、2007年に調査地内の100×100mメッシュの中心を通る調査ラインを踏査し、出現個体数を記録することにより把握した。高木の分布は、2002年撮影のオルソフォト画像を教師無し分類によって樹木を判別することで把握した。管理履歴は造林台帳を用いて植栽活動の履歴を調べ、最後に下草刈をされてからの年数を算出した。地形は標高・傾斜・曲率をDEMデータより算出した。解析では、クロツバラあるいは高木の分布を目的変数、管理履歴や地形の値を説明変数とし、誤差構造にポアソン分布を仮定した一般化線形混合のAICを選択基準とするモデル選択を行い、木本分布に影響を与える要因を検出した。
その結果、クロツバラは、最後に下草刈りをされてからの年数が若く、標高の低い所ほど多く出現していた。クロツバラは放棄草地にいち早く侵入し、草刈り後20年程度で消失する。一方、高木はクロツバラと異なり標高の高い所ほど多く出現していた。