| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-106
ブナの開花には,何らかの気象条件がトリガーとしてはたらくとされている。Masaki(2008)によれば,夏の気温が例年よりも高いと翌年に開花が誘導されるとし,具体的には,HTSM(7~8月の日最高気温の,平均値からの偏差が連続して正になった日数分の積算温度が最高の値)が58.8℃の閾値を上回った翌年に大規模開花が起こるとした。演者らは山形県においても,この閾値を上回ると大規模開花になることを確認した。しかし,実際には豊作と豊作の間にも小中規模な開花が起きており,Masaki(2008)の仮説だけでは説明できない。これまでの解析で,ブナでは個体により開花頻度が異なり,小中規模開花は一部の開花しやすい個体により起こる。同じ環境条件下で個体によって開花頻度が異なるのは,Masaki(2008)の仮定した閾値が実際には個体ごとに異なると考えられ,この仮説からブナの開花挙動の説明を試みた。
山形県鶴岡市のブナ二次林から72個体を選び,1999~2007年の開花状況を調べた。また,最寄りの鶴岡気象観測所のAMeDASのデータからHTSMを算出した。その後,個体が開花した前年のHTSMのうちの最低値を,少なくとも開花に必要な閾値を上回っていると考え,その個体の閾値として1999~2007年の間に開花した65個体に設定した。
個体の閾値と開花頻度の関係は有意な負の相関を示し(R2=0.63,P<0.01),閾値が低い個体ほど9年間で開花した回数が多かった。また,HTSMが63.0℃を上回ると65個体のうち64個体以上が開花する一方で,63.0℃に届かないと特定の18個体しか開花しないと示された。
ブナは個体によって開花に必要な閾値が異なり,一部の開花しやすい個体によって小中規模開花が起きることが示唆された。