| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-107
近年、山形県ではウエツキブナハムシによるブナの葉への食害が拡大している。しかし、激害林分でも全く被害のない個体が見られる。このような被害の違いは防御程度が個体により異なるためと考えられる。ブナは資源を葉の防御だけでなく開花など繁殖にも投資する。さらに、開花頻度は個体で異なるとされている。もし、開花と防御がトレードオフの関係ならば、開花回数の少ない個体で防御が強いと予想される。本研究では①個体で被害程度が異なるのか、②それは開花頻度で異なるのか、③異なるなら、防御程度の差によるのか検証する。
調査は山形県鶴岡市櫛引地区と山形大学附属演習林のブナ林で465個体の被害度を観察した。被害度は2009年9月下旬に目視で、被害なし、被害小(各層全体の葉の5割以下の被害)、被害大(6割以上)に分類した。72個体は1999~2007年までの個体毎の開花回数が分かっている。そこで、開花回数と被害度の関係を調べた。さらに、2010年に9個体を用いて、物理的防御(葉の堅さとトリコーム)と化学的防御(縮合タンニンと総フェノール)の解析を行った。
被害度調査の結果、被害なしの個体は全体の22%、被害小が34%、被害大は44%となり、個体間で違いがあった。さらに、開花回数が多い個体ほど被害大の個体の割合が多い結果となった。葉の堅さは開花回数が少ないほど堅い傾向があった。一方、トリコームと化学的防御には開花回数との関係はみられなかった。
開花回数が少ない個体で被害が小さい結果から、開花が少ない個体は繁殖への資源投資が少なく、防御へ多くの資源を回していると考えられる。具体的な防御としては、開花の少ない個体は葉をより堅くして食害を回避すると考えられるが、化学的防御をより多く生産するわけではないと推察された。