| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-117

富士山南東斜面森林限界の30年間の動態

*大石このみ(静岡大・理),崎尾均(新潟大・農),増沢武弘(静岡大・理)

富士山では1707年の宝永噴火により南東斜面の植生が消失した.現在,南東斜面は一次遷移が進行中で,森林限界は標高約2400mに位置している.一方,噴火の影響の少なかった西斜面の森林限界は標高約2800mに位置しており,南東斜面の森林限界はまだ上昇すると考えられる.そこで本研究では,富士山南東斜面の森林限界に調査区を設置し,1978年からの約30年間の森林の動態を明らかにすることを目的とした.

1978年に森林限界を含む10m×220mのベルトトランセクトを設置し,10m×10mに区切ったものを斜面上方から順に1区~22区とした.1978年1999年2008年に,1区から22区において樹高1.3m以上の木本の樹種・樹高・胸高円周を測定した.また,1978年2010年に1区から5区で植生投影図を作成した.

1区から5区のすべての調査区において,植被率は1978年から2010年で増加していた.特に2区3区の植被率は約2倍に増加していた.木本植物の植被率の合計が,草本植物の合計よりも高くなるのは,1978年には4区,2010年には3区で,約10m上昇していた.

樹高1.3m以上の木本が出現するのは,1978年は5区,1999年2008年は3区であった.斜面上部ではカラマツ・ミヤマヤナギ・ミヤマハンノキが見られた.個体数はカラマツが最も多かったが,ミヤマヤナギ・ミヤマハンノキは1ヶ所から複数の幹を出してブッシュを形成し,幹本数が多かった.カラマツは伸長肥大成長して優占種となるが,ミヤマヤナギ・ミヤマハンノキは樹高6m程度にしか生長せず,ブッシュを形成していた幹本数も減少していく傾向が見られた.斜面下部ではシラビソやトウヒの稚樹が出現した.同時にカラマツの個体数が減少し,シラビソやトウヒが優占種となっていった.

以上の結果から,森林限界は30年間で大きく上昇していると考えられる.


日本生態学会