| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-124

大峯山系弥山におけるシカによるシラビソの更新阻害

*山本浩大(奈教大・生物),辻野亮(地球研),松井淳(奈教大・生物),高田研一(森林再生支援センター)

大峯山系の弥山(標高1895 m)周辺の亜高山帯林には、シラビソ林が発達しており、縞枯れ現象が見られることが知られている。しかし、近年弥山付近のシラビソ林において立ち枯れ木が目立ち、縞枯れ現象における縞が不明瞭になっている。周辺の大台ケ原でニホンジカの影響があることや調査地付近でシカの糞が多く見られたことから、その原因はシカであると考えられる。この地域のシラビソ林は日本の南限に位置し、学術的に重要な植生が残る場所であることから、その保護対策の基礎調査としてシラビソ林へのシカの影響を明らかにすることは重要である。

2008年に弥山の亜高山帯針葉樹林に1hのモニタリングサイトを設置した。植生調査では、木本性の実生・稚樹を対象とし、樹種・個体数・被食・高さについて調べた。個体数に対する全被食数を自然植生への被食圧と捉え、各樹種で比較した。2009・2010年の調査では、シラビソの実生・稚樹の個体数が最も多かったが、本来の縞枯れ更新に比べ明らかに少なかった。2009年の被食の有無によってシラビソの実生の伸長生長に差がある傾向が見られた。稚樹では他の樹種に比べてシラビソが被食されやすい傾向を示した。

糞塊調査では2009年9月から2010年11月にかけて、冬期を除き糞塊法によりシカの密度推定を行った。幅2m、長さ100mのトランセクトを5本設置し、その範囲内の糞をすべて除去した後、約1カ月後に糞塊数を数えた。推定生息密度は、2009年11月に66.4頭 / km 2 と最大で、2010年22.2頭 /km 2 で最小だった。しかし、各月の推定平均生息密度に有意差は無かった(One-way ANOVA p=0.096)。

以上の結果から、実生と稚樹の生長に与えるシカの影響を統合的に見て縞枯れ断絶に果たすシカの役割を考察する。


日本生態学会