| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-135

渦相関法を用いた炭素収支評価におけるCO2貯留変化量の影響

*斎藤琢,玉川一郎,村岡裕由(岐阜大・流域圏)

樹冠が密な森林における純生態系生産量(NEE)の値は,渦相関法計測で得られた樹冠上CO2フラックス(Fc)と渦相関法計測高度以下のCO2貯留変化量(Fs)の和から推定することが一般的である。その際,Fsを算出するために必要な渦相関法計測高度以下のCO2濃度プロファイル計測が行われていない調査地では,(1)Fsを考慮しない,(2)渦相関法計測高度の濃度変化より算出された簡易CO2貯留変化量(Fsc)でFsを代用するといった簡易手法が選択される。しかし,このような簡易手法を用いた場合に炭素収支の推定にどの程度の誤差が生じるかについては未だ十分な検討がなされていない。本研究では,常緑針葉樹林を対象とした渦相関法による3年間に渡る長期連続CO2フラックス計測データを用いて,Fsの有無が生態系呼吸量(RE),総一次生産量(GPP),NEEの推定にどの程度誤差を生じさせるかを評価し,Fsの算出に必要なCO2濃度プロファイル計測の必要性について議論した。RE,GPPをFs無しで推定した場合,Fsを考慮した”対照値”と比較して無降雪期間(5月~10月)で,年積算値に対して10%以上に達する大きな過小評価が生じた。これらの過小評価の主な原因は温度-夜間NEE回帰式の外挿によって得られた日中の呼吸量であった。渦相関法計測高度におけるCO2濃度変化から得られるFscを考慮した場合,RE,GPPは推定精度が大幅に改善され,RE,GPPの誤差は年積算値の2.0%以下となった。また,Fscを考慮したRE,GPP,NEEの季節変化,経年変化は”対照値”の季節変化,経年変化とよく一致した。これらの結果からFsとFscがよく一致するサイトであればCO2濃度プロファイル計測なしであっても,サイト間比較研究に耐えうる精度で炭素収支量の推定を行える可能性が示唆された。


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