| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-136

炭素・窒素安定同位体組成と水圏環境指標としてのオオクチバスの利用

*稲村 修(北大院・環科院),張 勁(富大院・理工),南川雅男(北大院・環科院)

北米原産のオオクチバスは世界各地に移植されており、日本でも全国のため池やダム湖などで定着している。水圏食物網では最上位になることが多く、その水圏の食物網を統合して特徴付けると考え、水圏環境指標としての利用を検討した。調査地域の富山県は標高3000~0mの環境がコンパクトに存在しており、オオクチバスが定着している10カ所の水圏(ダム湖8カ所、ため池2カ所)から、オオクチバスや他の魚類、湖底表層堆積物を採集し、炭素・窒素安定同位体組成を調べた。各水圏の測定個体(9~10個体)の脱脂した筋肉の炭素・窒素安定同位体比の平均(標準偏差)は、炭素で-28.7~-21.1‰(±0.4~1.4‰)、窒素で6.0~14.7‰(±0.3~0.8‰)であり、各水圏間では大きな変異がみられたものの、各水圏内では纏まりのある値を示した。各水圏の同位体組成の特徴は、ブルーギル・コイ・トウヨシノボリなどの魚類および堆積物の炭素・窒素安定同位体組成から推測した食物連鎖や、ダム湖の集水域平均標高および回転率(年間流入量/総貯水量)などのデータから解釈でき、オオクチバスの水圏環境指標としての有効性が示唆された。さらに安定同位体測定試料としてオオクチバスの鱗を検討したところ、鱗と脱脂した筋肉の炭素・窒素安定同位体比には、炭素でY=0.96X+1.58(R2=0.98)、窒素ではY=0.92X-1.15(R2=0.95)ときわめて高い相関が確認され、脱脂が不要で保存性の良い(乾燥保存、小スペース)鱗の有用性が示された。今後、オオクチバスの鱗を用いた炭素・窒素安定同位体解析により、世界各地の水圏環境の比較や、水圏環境の変化をモニターできる基礎的知見を得た。


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