| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-144

樹種によるリター分解プロセスの違いが落葉リターの分解速度に及ぼす影響:日本の森林5林分におけるリター成分動態の定量的比較

*小野賢二(森林総研東北),平舘俊太郎,森田沙綾香(農環研),平井敬三(森林総研東北)

落葉中の有機物がリター分解速度の低下に及ぼす影響を評価するため、スギ、ヒノキ、イタジイ、ブナ、ミズナラ、シラカンバの落葉を対象にリター分解試験と固体13C核磁気共鳴法を適用し、リター分解に伴う有機物成分の経時変化を定量解析し、落葉リターの分解速度kと個々の有機物成分のkの関係を解析した。落葉リター全体とリター中の各有機物成分の重量残存率は全樹種でリター分解の進行とともに指数的に減少し、それらの分解速度kは時間の経過に伴って低下した。リター全体のkは0.4年-1で、樹種に限らず一定であったが、有機物成分のkは樹種により幅があった。特に脂肪族と芳香族化合物のkは樹種特異性を示した。落葉広葉樹における脂肪族化合物のkは0.28~0.34年-1であり、常緑広葉樹や針葉樹より低い値を示した。これは各成分の初期含量や分解者による再合成、分解初期の溶脱プロセスなどの樹種間の違いを反映したと考えられる。広葉樹における芳香族化合物のkは針葉樹よりわずかに高い値を示したが、おそらくこれは樹種によるシリンギルおよびグアイアシルリグニンの組成や縮合型タンニンの含有量を反映したのだろう。O-アルキル化合物のkは0.44~0.57年-1を示し、全樹種で他の成分に比べて最も高い値を示したが、分解者生物によるホロセルロースの選択的分解を反映した結果であろう。一方、カルボニル化合物は有機物成分の中で最も低いk値を示したが、これは有機物分解において起こる酸化分解反応によってカルボニル基が生成されたことに起因する。リター全体に対する各有機物成分の相対的分解性を比較したところ、O-アルキル化合物はリター分解の進行に貢献し、逆にカルボニル化合物はリター分解速度の低下に寄与した。脂肪族と芳香族化合物のリター分解速度の低下への寄与率は樹種による有機物の成分組成や化学構造の違いを反映して異なった。


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