| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-159
河川に遡上したサケマス類(Oncorhynchus spp.)の親魚は、産卵後にその遺骸が流域生態系の動植物に利用されることで、海洋で蓄えた養分を陸域に運ぶ重要な役割を果たしているとされる。しかし、北海道の河川生態系の主要な構成群である魚類や底生無脊椎動物の多くが遺骸を直接捕食しないとされており、サケマス親魚による他の生物への影響については未解明の部分がある。本研究では、遡上したサケマス親魚が河川食物網の構造に与える影響を、炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)を用いて明らかにすることを目的とした。2009年と2010年のサケ(O. keta)とカラフトマス(O. gorbuscha )の親魚の遡上前と遡上後に北海道内の4河川の遡上水域と上流の遡上しない水域で、また、同期間に石狩川水系千歳川の支流でサケ親魚の遺骸設置による操作試験を実施し、それぞれ魚類と底生無脊椎動物を採集した。採集した生物は、全河川で底生無脊椎動物がカゲロウ目、カワゲラ目、トビケラ目とヨコエビ亜目などの38分類群であり、魚類が11種だった。それぞれ種類毎にδ13C・δ15Nを分析し、胃内容物を調べた。底生無脊椎動物のうち5河川に共通して出現した6分類群と、魚類ではサクラマス幼魚(O. masu)とカンキョウカジカ(Cottus nozawae)で、サケの遡上期にδ13C・δ15Nの値が重くなった。サケマス類の親魚の遡上後の河川生物への影響は、基礎生産や低次消費者から段階的に波及するのではなく、低次消費者や捕食者にそれぞれ同時に直接作用して食物網の構造が変化することがわかった。これは底生無脊椎動物が遺骸を直接利用するほかにその養分を河床の付着藻類や有機物から取り込み、魚類はサケマス類の卵の一部を直接捕食するためと推察された。