| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-210

食物網構造をベイズ推定する安定同位体混合モデルの 開発と検証

*角谷拓(国環研),長田穣(東大),瀧本岳(東邦大)

近年、炭素や窒素、あるいは硫黄の安定同位体比から、食物網構造を探る試みが盛んに行われている。例えば、基底種(一次生産者)と最高位捕食者の窒素安定同位体比を比較することによって、食物連鎖長(食物網の高さ)を推定することができる。しかし、食物連鎖長を推定するだけでは、食物網の内部構造を明らかにできない。一方で、ある特定の消費者とその餌種だけに注目した場合には、消費者と餌種の安定同位体比から各餌種の貢献比率を統計的に推定する方法(混合モデル)は既に確立している。しかし、従来の混合モデルでは食物網の全体構造を定量的に推定できない。

そこで本研究では、胃内容分析や糞分析、文献調査等から得られる食物網構成種の間の食う-食われる関係の有無を0(無い場合)と1(有る場合)で記述した二値食物網データと、食物網構成種の安定同位体比データを取得することによって、その食物網における全ての消費者について異なる餌資源の貢献比率を同時に推定するベイズ推定モデルIsoWebを開発した。従来の混合モデルでは、餌種の安定同位体比の事前分布が無情報(試料の値だけに依存する)と仮定されている。これに対してIsoWebには、この事前分布が餌種の餌種(餌種が消費する餌資源)の安定同位体比によって規定されるというプロセスが明示的に組み込まれている。

さらに、仮想食物網データを用いたIsoWebの検証および従来の混合モデルによる推定結果との比較を行った。その結果、IsoWebは食物網内の各餌資源の貢献比率を十分な精度で一括して推定できることが示された。また、十分なデータを取得できる条件下では、安定同位体比の実測データに含まれるサンプリング誤差とプロセス誤差(濃縮係数の状況依存性など)を区別し、より精度の高い貢献比率の推定が可能であることが示された。


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