| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-217

化学物質による摂食者群集のかく乱が栄養段階間転換効率に与える影響

*真野浩行, 田中嘉成(環境研)

湖沼生態系において、動物プランクトンのミジンコ類は一次生産者と魚などの高次栄養段階の生物間でエネルギーや物質の橋渡しをする重要な生物と考えられている。また、ミジンコ類は殺虫剤などの化学物質の影響を受けやすい生物種として知られている。そのため、湖沼への化学物質の流入はミジンコ群集をかく乱し、ミジンコ群集が関係する生態系機能に影響する可能性がある。ミジンコ類において種間で化学物質に対する感受性が違うことが知られており、ミジンコ生物群集を構成するミジンコ種間で化学物質に対する感受性が異なりうる。ミジンコ群集が感受性の異なる種で構成されていた場合、化学物質の暴露により感受性の高い種の個体数が減少して、生態系機能が変化する可能性がある。しかし、もしその時に感受性の低い種の個体数が増加するならば、感受性の高い種の個体数の減少が補償されて、生態系機能が維持される可能性がある。本研究では生態系機能として栄養段階間転換効率(低次栄養段階のバイオマス生産量が高次栄養段階のバイオマス生産量に変換される効率)に着目し、感受性の異なるミジンコ種で構成された群集に化学物質が暴露された場合に栄養段階間転換効率に対して補償効果が働くかどうかを、植物プランクトン、殺虫剤に対して異なる感受性を示すミジンコ2種、メダカで構成された室内実験系を用いた殺虫剤の暴露実験により検証した。補償がおこる場合、化学物質の暴露後に感受性の低いミジンコ種の個体数が増加し、栄養段階間転換効率は化学物質の暴露によって変化しないことが期待されるため、実験では、暴露区において化学物質を暴露した後の感受性の低いミジンコ種の個体数変化を調査し、栄養段階間転換効率の指標として用いたメダカのバイオマス増加量を対照区と暴露区で比較した。実験結果の一部は補償を示唆し、補償の有無は化学物質が生態系機能に与える影響に関係することが示唆された。


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