| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-244
生物は異なった環境要因に対してよく似た表現型可塑性を示すことがある。例えば両生類幼生は、捕食者の存在、餌の種類や量、水位、水温など多様な環境要因の変化に対して、幼生期間を伸ばしたり、逆に縮めたりするような表現型可塑性を示す。このように外見上よく似た表現型可塑性を引き起こす多様な環境要因が報告されているにもかかわらず、その進化のメカニズムは分かっていない。
エゾサンショウウオ幼生は、餌の種類や水位の変化に対して、幼生期間の表現型可塑性を示す。水位の減少による幼生期間の短縮化は生息池の乾燥化による死亡を避けるためであると考えられている。また同種を餌とした場合(共食い)も幼生期間が短縮化されるが、これは餌不足の幼生期間を出来るだけ早く終わらせるための適応であると考えられている。この幼生期間に見られる表現型可塑性が、そもそもどの環境要因への適応として進化したのかが本研究で検討された。幼生期間の表現型可塑性の選択要因として生息池の乾燥頻度と生息池の共食い頻度が候補となったが、モデル選択により生息池の乾燥頻度だけが選択要因として選ばれた。つまり幼生期間の表現型可塑性は生息池の乾燥化への適応として進化したことが分かった。しかしエゾサンショウウオ幼生は水位の減少だけでなく、共食いによっても幼生期間が短縮化される。おそらく初めに生息池の乾燥化への適応として進化した幼生期間の表現型可塑性の発生機構が、その後共食いによる幼生期間の表現型可塑性にも利用されてきたが、生息池の共食い頻度は新たな選択要因としてまだ十分にこの表現型可塑性には働いていないと考えられる。