| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-247
潜葉虫は、幼虫期に葉の内部に潜り込み、内部組織を摂食する(潜葉習性)。その摂食痕はマインと呼ばれ,視覚的に目立つ特性をもつ。潜葉習性の獲得により、紫外線や乾燥からの緩和、植物組織の効率的利用,捕食の回避といった利点を得た一方、マインの視覚的目立ちやすさは、産卵管をもつ寄生蜂を誘因し、高い寄生圧を招くという不利な点ももたらした (Connor & Taverner 1997)。
潜葉虫は,種分化の過程で葉表よりも葉裏への潜葉が広く進化しており (Reavey & Gaston 1991, Lopez-Vaamonde et al. 2003),この理由として,葉裏のマインの方が視覚的に目立ちにくく,寄生回避しやすいことが一因ではないかと考えられている (Reavey & Gaston 1991)。潜葉場所の違いが寄生蜂との相互作用を通じて潜葉虫のパフォーマンスに影響を与えるか検証できれば,潜葉習性の発達・進化の解明において重要な手がかりを得られるであろう。
本研究では,常緑樹ネズミモチの葉表・裏を潜葉するホソガ科のPhyllocnistis sp.を用い,葉内の潜葉場所 (表vs裏) と寄生率との関係を調査した。もし,葉表のマインが視覚的に目立ちやすく寄生を受けやすいならば,表マインの個体は裏マイン個体よりも高い寄生圧を受けるだろう。調査の結果,Phyllocnistis sp.の表・裏のマイン形成部位で寄生率を単純比較すると有意差はなかった。むしろ,表マインは,寄生蜂の積極的に探索のターゲットとされているわけではなく,同じ葉に同所的に存在する裏マインの存在によって,偶発的に寄生の対象となっている可能性が示唆された。これらの結果は予測を否定するものであり,その理由について考察する。