| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-249
イタセンパラは,コイ科タナゴ亜科の純淡水魚類で生きた淡水二枚貝類の鰓内に卵を産み込むという特徴的な産卵様式を持っている.本種は,1974年に国の天然記念物に指定され,淀川水系,富山県氷見市,濃尾平野の低平地を流れる河川やその一時水域で生息が確認されているが,生息環境の悪化により淀川水系では2006年から野生で生息が確認されていないなど極めて絶滅が危ぶまれている.木曽川では2007年に生息が再確認され,それ以降関係行政機関による保全活動が行われている.
本研究では,木曽川個体群を保全する上で基礎となる生活史の実態を明らかにする目的で, 3つの水域において 2009年4月から2010年2月にかけて野外調査を行った.本種は,4月に全長約1 cmで貝から泳出し,岸際に群れていた.7月には体長が約3 cm,8月に約4 cmと成長し,9月には約5 cmとなり,雌は体外に産卵管を伸ばし,雄は紫色の婚姻色を呈して成熟した.10月には,体長は約5 cmのままであったが,完熟卵を保有する雌個体が採集された.11-12月になると採集される成魚の個体数は極めて少なくなった.1月と2月には,生息する二枚貝類の内,二枚貝類の生息密度の高い場所にある殻長36 mmのドブガイ属貝類1個体と,殻長40-50 mmの範囲のイシガイで,内鰓ではなく外鰓内のみで、卵黄を持つイタセンパラの仔魚が確認された.
木曽川のイタセンパラは,10月に二枚貝類の生息密度の高い場所にある小さめのドブガイ属貝類とイシガイに産卵する.貝の外鰓内で仔魚のまま越冬し,4月には貝から泳ぎ出て,岸際に群れる.その後9月までに体長約5 cmに成長して,10月に産卵し,そのほとんどが死亡すると推測された.