| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-263
フジツボ類はノープリウス・キプリス幼生のプランクトン期を経て着底し、その後は固着生活を送り移動することはないとされてきた。しかし近年、アオウミガメに付着するカメフジツボ Chelonibia testudinaria が背甲上を這って移動する様子が報告された。移動が観察された個体のうちほとんどがウミガメの進行方向に向かったことから、より採餌効率の高い水流の強い場所を求めて移動しているとされたが、観察された個体数が少ないことや、横方向に移動する個体も確認されており、付着後の移動メカニズムは依然不明なことが多い。
本研究では、江戸時代の博物画に残されたカメフジツボ移動痕跡と、屋久島での野外調査の結果からカメフジツボの移動要因について考察する。フジツボ類は、着底後移動することができないため、集合フェロモンなどを用いて集中的に付着することが知られている。しまし、カメフジツボはウミガメ一個体に集団で付着することは多くなく、ほとんどが1~3個体程度の小集団を形成する。また、博物画に残されたカメフジツボの移動痕跡はウミガメの進行方向を向いていない(高木春山著『本草図説』)ことや、野外で尾方向に向けて移動している例も確認されたことから、採餌効率だけを求めての移動ではないと考えられる。カメフジツボは多くの場合小集団でウミガメ上に分布しているため、周囲に交尾相手となる他個体がいない場合が多い。カメフジツボの移動について効率的な採餌説を完全に否定することはできないが、矮雄のように小集団形成時の繁殖戦略として付着後の移動能力が発達したと考えられる。