| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-264
ミジンコの表現型可塑性は、湖沼生態系の捕食―被食相互作用を理解する上で重要な現象である。本研究では、1つの湖に共存する2種の体サイズが異なるミジンコ(Daphnia pulex:体長1.3mmとD. ambigua:体長0.8mm)をもちいて、種間・クローン間・クローン内個体間で捕食者に対する防衛形態を比較した。ミジンコは1種につき10クローンを単離し、捕食様式が異なる2種の捕食者(魚とフサカ幼虫)の匂い物質を含む飼育水(カイロモン水)とカイロモンなし飼育水(コントロール)でそれぞれ飼育した。ミジンコ形態は、頭長、体長、尾刺長を計測し、D. pulexでは背首歯状突起を、D. ambiguaでは尖頭の有無を確認した。D. pulexでは、フサカカイロモンに対しては1-2齢で背首歯状突起を形成し、かつ体長を大きくすることで食われにくい形態を発現し、魚カイロモンに対しては1-2齢では反応せず3齢以降で体長を小さくする反応が見られた。一方、D. ambiguaでは、フサカカイロモンに対しては1-4齢で尖頭と長い尾刺を発現し、魚カイロモンに対しては1-3齢まで反応せず4齢から体長と尾刺長を短くする反応が見られた。これらカイロモンに対する反応は、クローン間において大きな違いがあることがわかった。さらには、個体間でも誘導防衛の発現能力に変異が見られた。先行研究の結果をまとめると、捕食様式の違いから、体サイズの大きいD. pulexは、視覚捕食者である魚に対して、体サイズの小さいD. ambiguaは、口器サイズに依存するフサカ幼虫に対して、それぞれ可塑性を顕著に発現すると予想される。しかし実際の体サイズは成体では異なるが、成長段階においては大きく重複しており、上記のような単純な予測では説明できないことがわかった。