| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-265

防御形態の異なるミジンコ属4種を用いたその発生制御機構の比較

*宮川一志, 杉本直己, 三浦徹(北大・院環境科学)

多くの生物において、同一の遺伝情報から異なる表現型を生み出す表現型可塑性は、変動する環境への適応に重要な役割を果たしている。またさらには可塑性によって生じる様々な表現型が遺伝的に固定されることで生物の多様な形態が生じうることから、その制御機構の解明は発生生物学のみならず進化・生態学的にも重要な命題である。

湖沼に生息する動物プランクトンであるミジンコもこの表現型可塑性を巧みに用いることで繁栄を遂げている生物のひとつである。ミジンコ属 Daphnia の多くは捕食者の放出する物質(カイロモン)を感受すると、頭部形態や殻刺の長さが可塑的に変化し、防御形態を形成する。防御形態は近縁種間で形や大きさが様々に異なり、それぞれの種が異なる環境や捕食者に適応してきた結果であると考えられるが、その分子発生学的メカニズムはよくわかっていない。本研究で我々は、このミジンコ属における多様な防御形態が発生過程のどのような変化に起因しているのかを明らかにするために、カイロモンに応じて後頭部にトゲ(ネックティース)を生じる D. pulex、肥大化した頭部(ヘルメット)を形成する D. galeataD. ambigua、および防御形態を生じない D. magna のミジンコ属4種を用いてその発生制御機構を比較した。

防御形態形成時における発現遺伝子や、それらの制御に関わっていると考えられる幼若ホルモン経路の働きをこれら4種で比較した結果、異なる防御形態であっても種を超えて保存された機構が存在することが示唆された。その一方で、特定の防御形態特異的に獲得されたと考えられる機構の存在も示唆された。ミジンコ属は、祖先種で獲得した表現型可塑性のメカニズムを一部改変しながら流用することで、多様な防御形態を進化させてきたと考えられる。


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