| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-268
摂餌は,生物の活動に必要なエネルギーの摂取であり,摂取したエネルギーは身体の維持や成長,移動分散,繁殖能力に分配される.そのため,摂餌器官の形態と機能は,生理的特性や生活史特性と密接に関わる.この点から,口吻の長さが多様化(退化)しているスズメガ類ウチスズメ亜科では,摂餌のあり方の変化と共に諸形質も多様化していると予想される.スズメガ類は,一般に長い口吻を持ち,盛んに花から吸蜜を行う大型の蛾類である.しかし,その中に含まれるウチスズメ亜科では,成虫の口吻が短い傾向が見られ,口吻が退化して痕跡的にしか持たない種もいる.そのため,口吻の長さと対応する形で,花蜜を吸う種,水分のみ摂る種,そもそも摂餌をしない種など,摂餌のあり方も種間で異なると予想される.さらに,成虫の摂餌のあり方が異なることで,成虫の寿命や移動量,繁殖の時期といった生活史特性,そして,消化器官や体内に貯蓄している脂肪の量といった生理的特性など,様々な側面が異なると考えられる.また,スズメガ類における口吻の退化は,二次的に進化したと考えられており,特に,繁殖に関する特性と関係して口吻の退化は起きたものと思われる.
本研究は,まず,口吻の退化したスズメガが摂餌を行うかどうかを,色水を用いた行動実験,及び飼育実験によって調べた.次に,消化の役割を担う中腸の皮膜細胞を,パラフィン切片を作成して観察することで,成虫の消化能力を調べた.これらの結果を,口吻の長さが異なる種間で比較することで,口吻の長さと摂餌の関係を明らかにする.さらに,口吻の長さが異なる種の性成熟期を調べ,口吻の長さと性成熟の早さ及び性成熟期の長さに関係が見られるかどうかを調査した.以上の結果から,スズメガ類の口吻の退化と,諸形質の進化の関連について考察する.