| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-270

自然選択がショウジョウバエの転写調節領域進化に与える影響

*佐藤光彦,牧野能士,大野(鈴木)ゆかり,岩嵜航,河田雅圭

生物の持つ様々な表現型形質は適応度と深く関係しており、表現型形質とそれを決定する塩基配列との間の関係を理解することは進化生態学において非常に重要である。様々な表現型形質を決定する遺伝子の発現量を時間的空間的に調節する機構の一つとして、転写因子と転写制御配列の相互作用からなる転写制御ネットワークがあげられる。種分化においても遺伝子発現は重要な役割を果たすことが報告されており、転写制御による遺伝子発現量の調節は非常に注目されている。近年、シス制御領域の塩基配列から転写因子の結合確率を求めて遺伝子発現量を予測するモデルが提唱された。これにより、ショウジョウバエ初期発生に関わる転写制御領域の配列から転写因子結合確率と発現量の関係を予測することが可能になった。本研究ではこのモデルを応用してシス制御領域配列の置換による発現量変化の特徴を調べ、ショウジョウバエ近縁種間でのシス制御領域配列の違いと予測される発現量の違いが自然選択によって生じた可能性があるかどうかを調べた。今回調べた8つの遺伝子のシス領域の61%から97%の塩基置換は発現量に変化を与えなかった。発現量を大きく変化させる部位はごく一部(0.2%〜4.5%)であり、その他はわずかに発現量を変化させる領域であった。Drosophila属の3種について初期発生に関わるシス制御領域を、種間の配列の違いと同量の変異をランダムに起こすことで比較した。その結果、すべての組み合わせで有意にはたらく自然選択は検出されなかった。本研究は、配列の違いから転写因子結合確率および発現量の違いを予測するモデルを用いることで、種間の配列の違いが発現量の違いをもたらしているかどうかを予測できること、また、その違いが自然選択による違いかどうかを検出することができることを示した。今後調査対象を広げ、方法を改良することで選択を検出する有用な手法になると考えている。


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