| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-272

シデコブシとタムシバの交雑帯における一方向的な遺伝子浸透

*村西周平(名大院生命農),玉木一郎(岐阜県森文ア),鈴木節子(森林総研),戸丸信弘(名大院生命農)

シデコブシとタムシバはモクレン科モクレン属の近縁種である。岐阜県東濃地域から愛知県中部にかけて、両種の集団が隣接して分布する場所が存在し、両種の中間的な形態を示す個体が存在する。演者らは、シデコブシとタムシバ、それらの中間的な形態を示す個体(成木)について、核・葉緑体DNAマイクロサテライト(それぞれnSSRとcpSSR)を用いて解析し、種間雑種(F1)、さらにF2、タムシバとの戻し交雑個体を同定した。興味深いことに、種間交雑はタムシバが母樹となる一方向性であり、シデコブシとの戻し交雑はみられなかった。もし、戻し交雑の母樹がタムシバであれば、シデコブシからタムシバへ一方向的な遺伝子浸透が生じていることになる。そこで、本研究では、実生を含む稚樹を材料として、両種間の遺伝子浸透パターンを明らかにすることを目的とした。愛知県瀬戸市海上の森において両種が同所的に分布する場所に生育する稚樹830個体を材料としてnSSR16座とcpSSR3座の遺伝子型を調べた。まずnSSR遺伝子型を用いたNEWHYBRIDS解析でシデコブシとタムシバ、F1、F2、戻し交雑個体を同定し、次に戻し交雑個体を対象に親子解析を行い、cpDNAハプロタイプから母樹を特定した。その結果、両種以外ではF1が46個体、F2が7個体、タムシバとの戻し交雑個体が80個体となり、シデコブシとの戻し交雑個体は存在しなかった。また、すべてのF1は母樹がタムシバであり、両親が特定されたタムシバとの戻し交雑個体のほとんどは母樹がタムシバで、F1やF2が母樹になることはなかった。これらの結果から、シデコブシからタムシバへ一方向的な遺伝子浸透が生じていることが示されるとともに、一方向的な種間交雑と遺伝子浸透は実生定着以前の生活史段階における偏った生殖隔離が原因であることが示唆される。


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