| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-277
自然界で新しい生物種が生まれるためには、集団間が物理的な障壁によって、長期間隔離されることが必要であると一般的に考えられてきた。一方で、さまざまな生態環境(気候、資源、生物間の相互作用など)への適応的な分化によって、物理的な分断を必要とせずに種分化は起こり得るという議論がある。とりわけ、対照的な環境に適応した集団間で、分断化を促す自然選択圧を受けることで、(移入個体や雑種の生存不能などによって間接的に)遺伝子流動が制限されるプロセスは“生態的種分化”と呼ばれ、数百~数千世代というごく短期間でも種分化が起こる可能性が理論的に示されてきている。演者らは、洪水による激しい濁流に晒される一種の極限環境に適応した渓流沿い植物と、隣接する林床帯に分布する近縁種について、両者の種分化の具体的な分岐年代と適応進化のプロセスを検証した。具体的にはキク科の多年草であるモミジハグマ属(Ainsliaea)を用いて、渓流種と林床種について、複数の核遺伝子領域の塩基配列を決定し、コアレセント解析を行った。その結果、適応分化と種分化の起源は最終氷期~後氷期にかけてというごく新しい時代に遡り、さらに種分化の過程で互いに接触し遺伝子流動が起こった可能性が示されてきた。本研究の結果は、渓流沿い植物の適応進化と種分化の起源を初めて検証し、生態的な種分化を具体的に示すものである。