| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-279

食草利用能力の遺伝構造:現食草への適応が導く新食草への前適応とその限界

*菊田尚吾(北大・院理),藤山直之(北教大・旭川),片倉晴雄(北大・院理)

食植性昆虫の多様性を導いた要因として、食性の進化的変化が大きな役割を担っていることが多くの研究により指摘されてきた。食植性昆虫が新たな植物を利用し始めるにあたっては、従来の植物に依存する食植性昆虫集団の内部に、新しい食草を利用するためのある程度の能力(前適応)が保持されていることが期待されるが、こうした前適応を生み出し、それを維持するメカニズムについてはほとんど分かっていない。

食植性テントウムシであるエゾアザミテントウはキク科のチシマアザミを主要な食草としているが、他のアザミ類やナス科植物なども副次的に利用している。これら副次的な食草を含む9種の植物を利用する能力の間の遺伝的な関連性(遺伝相関)を幼虫の飼育実験を通じて検討した結果、近縁な植物の組み合わせでは植物利用能力の間に正の遺伝相関が検出されやすい傾向があり、遠縁な組み合わせでは正負いずれの相関も検出されないケースが大半を占めた。この結果は、系統的に近い植物を利用する能力はある程度共通の遺伝子群によってもたらされている一方で、遠縁な植物を利用する能力は異なる遺伝子群の影響を強く受けている事を示唆している。

特定の食草への適応は共通の遺伝子群の作用によって食草以外の近縁な植物への前適応を間接的に産みだし、この前適応はその食草を利用する限り維持されるだろう。食植性昆虫による食草変更や食草幅の拡大は分類学的に近縁な植物の間でより生じやすいことが明らかとなっているが、“正の遺伝相関が導く前適応”は近縁な植物間での食草変更を生じやすくする機構として重要かもしれない。ただし、前適応で導かれた潜在的食草の利用能力が現在の食草のものよりも低い場合には、利用能力が同じ遺伝子群に依存する性質上、この間接的な作用のみで食草変更が進行することは困難だと考えられる。


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