| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-310
本研究は、残存個体数が数百以下となった絶滅危惧植物を対象に、遺伝情報を用いた包括的モニタリングに基づく保全策を構築するプロジェクトの一環として実施した。対象種のゴヨウザンヨウラク(ツツジ科ヨウラクツツジ属)は高さ約1mの落葉低木で、岩手県の五葉山のみに生育する絶滅危惧IA類である(RDB2000年版)。現地調査として、2009-10年の6月から8月の開花・結実期に、すべての開花株を探索して位置情報を収集し、樹高・地際径・開花数の測定及びDNA抽出用サンプルの採取を行った。また、20花以上開花した28個体の各10枝以上を対象として開花・結実数をカウントし、結果率を算出した。採取したサンプルは、新規に開発した11座のマイクロサテライトマーカーを用いてジェネット識別、遺伝的多様性、空間的遺伝構造等の解析を行った。さらに、同所的に生育している近縁種コヨウラクツツジについても、8座を用いて同様の解析を行った。
ゴヨウザンヨウラクの開花株は241株確認され、DNA分析に基づくジェネット数は188であった。ヘテロ接合度の期待値は、ゴヨウザンヨウラクで0.636、コヨウラクツツジで0.837であった。個体ペア間の遺伝的な近さを空間的距離階級ごとに比較したところ、50m以下に強い近縁性がみられた。結果率は平均49%であった。
生育地において多数の種子生産および幼稚樹の更新が観察され、個体群が危機的な衰退過程にある状況は認められなかった。しかし、遺伝的多様性はコヨウラクツツジと比較して低い傾向があり、このことは既報においても指摘されている(Makiら 2002)。今後は、種子や稚樹の分析および更新状況のモニタリングなどによって保全遺伝学的な将来予測等を行い、適切な保全策を検討する予定である。