| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-321
農村景観は、空間的異質性が生物多様性を創出、維持してきたが、近年、耕作放棄等に伴う異質性の低下が問題となっている。なかでも草地面積の著しい減少は、様々な草地性生物の減少を招いている。水田畦畔では、現在も多くの草地が維持されている。とくに棚田は、広幅員の畦畔法面をもつため草地面積が大きい。また小規模な水田群が形成する複雑な畦畔構造や、森林との接点等に起因する空間的異質性も高い。従って、棚田は草地性生物にとって量的及び質的に好適な生息地と予測される。しかし、これまでの研究の多くは、植物の生育地としての重要性にのみ着目してきた。
本研究では、ニホンカナヘビを対象に棚田畦畔の生息地としての評価をおこなうことを目的とした。本種は食物網の中間捕食者として他の様々な生物と関係するほか、行動圏が狭いことなどから、生息地の質を反映しやすい種であると考えられる。そこで、1)カナヘビの生息密度は棚田畦畔で他の草地に比べて高く、それには、2)餌生物の量(または質)と環境の異質性の高さ(畦構造の複雑性および林縁草地)が関係している、とする仮説を検証した。
調査の結果、カナヘビの生息密度及び餌生物(節足動物等)の現存量は、他の草地景観に比べ棚田で比較的高かった。また、安定同位体比分析によって、クモ類が、カナヘビの依存度が最も高い餌として推定された。カナヘビの生息密度はクモ類の現存量と正の相関が見られた。しかし餌生物全体の現存量とは有意な相関は見られなかった。また、棚田の物理環境では、カナヘビは周囲20mの畦構造の複雑性が高い環境を選好することが示唆された。