| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-332

再導入後のトキ ~ 営巣場所の選好性について

*上野裕介,金子洋平,中津弘,永田尚志,山岸哲(新潟大・朱鷺自然再生学)

ニッポニア・ニッポンという学名を持つ鳥・トキは、かつて日本全国に分布していたが、野生絶滅してしまった。このトキの野生復帰を目指した放鳥が、2008年から新潟県佐渡島で始まっている。野生復帰を成功させるためには、トキが好む餌場と繁殖場所の特徴を把握し、生息環境を整備することが必要である。佐渡島でのトキの餌場整備は、科学的な知見の蓄積と、佐渡市と農家による水田の生き物に配慮した取り組みによって、徐々に成果を上げつつある。他方、営巣環境については、過去の知見に乏しく、整備も進んでいない。このためトキが好む営巣場所についての知見を集め、営巣環境の整備と創出につなげることが不可欠である。

佐渡島に再導入されたトキは、2010年春に初めて繁殖ペアを作り、島内で計7つの巣が確認された。そこで本研究では、トキが営巣木としてどのような特徴を持った樹木を好むのかを明らかにすることを目的とした。まず営巣が確認された7巣について、営巣木の立地環境(位置、標高、斜面方位、傾斜)を記録した。次に営巣木および周辺の立木の樹種と胸高直径、樹高を測定し、両者を比較することで営巣木に共通する特徴を明らかにした。

その結果、トキは明確な樹種選好性を示さず、傾斜地のギャップあるいは林縁部近くにある大径木に営巣していることが明らかとなった。これは、大径木に架巣しやすいことと、親鳥の巣への出入りのしやすさが関係していると考えられる。しかし現在の佐渡では、戦中から戦後にかけての過度の伐採や、マツ枯れ病、近年のナラ枯れにより、大径木が非常に少なくなっている。このためトキの営巣環境を保全し、創出するために、今後は佐渡島全域での営巣環境(ポテンシャル)の把握とその対策が必要である。


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