| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-334
日本庭園ではコケ植物が重要な地被植物として使われており、一部ではその高い多様性も報告されている。そこで本研究では、日本庭園が有するコケ植物多様性保全効果について考察した。調査地は、金沢市内の日本庭園(兼六園)と隣接する都市緑地(公園、二次林、芝地)とし、各調査地においてコケ植物種数と環境要因(木本・草本被度、水域面積、土地起伏、生育基物多様性、立ち入り制限区域の面積、管理形式)を記録した。
まず一般化線形モデルを用いてコケ植物種数と環境要因の関係を考察したところ、コケ植物種数に正の影響を与える環境要因として、水域面積、岩場、立ち入り制限区域、綿密な管理が抽出され、その一方、草本被度は負の影響を与えることが示唆された。変水性生物であるコケ植物は維管束が発達せず、コケ植物の多様性は水分状態に大きく左右される。さらに、コケ植物はシュート全体から直接水分を吸収するため、土壌が発達しない岩上にも生育することができる。これらの生態を考慮すれば、水域や岩場の存在はコケ植物の生育環境多様性の向上につながり、種多様性を高めていると推察された。
次に、各調査地の環境を比較した結果、日本庭園ではコケ植物種多様性と正の相関がみられた環境要因の値が高いことが明らかになった。庭園デザイン手法の一つに植物や岩、池によって自然の風景を模倣した景観を庭園内に作り出すもの(縮景)があり、このデザインが庭園の高い水域や岩場の面積に関連していると考えられた。さらにこれらの景観を維持するための除草や落ち葉掻きなどの管理や立ち入り制限区域の設置も草本による被覆や踏圧に弱いコケ植物多様性の維持に貢献していると推察された。
以上の結果より、日本庭園の高いコケ植物多様性は、庭園デザインや管理によって維持されていると考えられた。今後、日本庭園を活かしたコケ植物多様性保全計画の提案が期待される。