| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P2-337
原始的な甲殻類である鰓脚類は、耐久卵を産み、乾出後に浸水して急速に孵化・成長し一生を終える。この生活史特性から、水田は鰓脚類にとって格好の生息場所であり、多様性も高い。従って、里山の自然環境を把握するうえで鰓脚類のファウナは有効な情報となる可能性がある。そこで、発見・採集・同定が容易な大型種を対象として、一定範囲の水田における分布調査を市民参加により行った。
淀川水系調査プロジェクトに登録した市民に対し、2007~10年の5~7月に水系内の水田で大型鰓脚類(ホウネンエビ、カイエビ類、カブトエビ類)の採集を依頼した。採集時に水田の水深、栽培種(水稲またはハス)、稲作の段階(5段階)、畔の護岸度(25%刻み)、導水方法(自然落水またはバルブ導管)を記録してもらった。水深、栽培種、稲作の段階はほとんど変異がなかったため、護岸度、導水方法、標高を説明変数、各種の出現の有無を応答変数としたGLM解析を行い、要求環境の推定を試みた。
その結果、ホウネンエビは標高(係数:負)、トゲカイエビは標高(負)と導水方法(自然落水が正)、ヒメカイエビ属は標高(負)、カイエビは標高(正)と護岸度(負)、タマカイエビは護岸度(負)、アジアカブトエビは標高(負)と導水方法(自然落水が正)、アメリカカブトエビは標高(負)が生息の説明モデルとして選択された。
標高と相関する気温(水温)は、各種に共通する要求環境の可能性が高い。一部の種は護岸度や導水方法が影響しており、圃場整備は生息に負の効果を与えるかもしれない。ただし、モデルに含めていない輪作の有無や休耕期間、拡散経路等も影響している可能性があり、これらの検討は今後の課題である。