| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-344

東シベリアにおける野生トナカイの動態:衛星測位による移動ルートの解明と保全上の課題

*立澤史郎(北大・文), I. M. Okhlopkov, E. V. Kirillin, A. P. Isaev(ロシア科学アカデミー・寒地生物研), A. A. Krivoshapkin(ヤクーツク大・理)

北極圏および亜北極圏に広域分布し、大規模な季節移動で知られるトナカイRangifer tarandusは、近年では、脆弱な極北の陸上生態系における主要な生態系エンジニアとして、さらには北方先住民の多くが生業活動(狩猟・畜産など)を頼る資源動物として、その動態が注目されている。しかし、分布がほぼアジア側に限定されるユーラシアの野生個体群については、気候変動に伴う急激な密度変化が断片的に報告されているものの、特に分布域の大半を占める東シベリアでの生息実態はほとんどわかっていない。そこで著者らは、近年急激な密度増加を示すサハ共和国のアナバル川水系(オレニョク地方)において、2010年8月から衛星測位システム(Argos-Argosシステム)による野生トナカイの移動追跡調査を行っている。

衛星発信機を装着した15頭(オス7、メス8; 2010年12月時点でオス5、メス8)の情報では、従来報告されているような一方向(春に北極海側へ、秋に内陸へ)の移動でなく、ほぼ正反対の2方向(北東側と南側)にわかれた移動ルートを示し、しかも現地での目視観察情報をあわせると、集合せず前後約100kmにわたって分散しながら移動していた。今回確認された移動のルートおよび様式は、いずれもこれまで報告されていないものだが、本地方が東西を変動の激しい2大個体群(西:タイミール個体群、東:レナ個体群)に挟まれていること、若齢個体の比率が低いことなどから、2つの隣接個体群が流入して同地域で越夏している可能性が高い。2個体群の越夏エリアが同時に変化した原因は今後検証すべき課題だが、夏の高温、東西地域での食物資源の低質化、解氷時期の変化による移動可能域の変化、などが考えられる。


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