| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-002
中国毛烏素沙地で優占する植生の一つである臭柏は、匍匐型の生活形をもつヒノキ科の常緑針葉樹であり、しばしば直径50mを超える密な群落を形成する。しかし、群落内の個体を形態的に判別することは困難であり、これらの群落が匍匐枝の成長による個体の拡大または匍匐枝の分断による栄養繁殖で広がった少数の大クローンからなるのか、種子繁殖による多数の小クローンからなるのかは不明である。本研究では、臭柏群落のクローン構造を明らかにすることを目的とした。
中国内蒙古自治区烏審旗の臭柏群落内において3種類のプロット(プロットⅠ:80m×100m、Ⅱ:Ⅰと80m×20mが重複する88m×24m、Ⅲ:Ⅰ、Ⅱ内部の10m×10m)を設置した。各プロットは10m、4m、1mの方形区に分割し、方形区の格子点において遺伝解析用のサンプルを採取した。採取したサンプルはS. vulgarisで開発した4座のマイクロサテライトマーカーにより遺伝子型を決定し、クローン構造の解析を行った。
解析の結果、プロットⅠでは41クローン、プロットⅡでは34クローン、プロットⅢでは24クローンが確認された。また、これらの各クローンの大きさ(分布範囲)は様々であった。独自の遺伝子型を示し、ごく限られた範囲にしか分布しないと推測されるクローンがある一方で、2つの遺伝子型については10m間隔で隣接する8格子点で確認され、これらのクローンは300㎡にわたって分布することが示された。これらの結果から、臭柏群落は多数の多様な大きさのクローンで構成されており、群落の形成と維持には栄養繁殖と種子繁殖の両方が寄与していると考えられた。