| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-005
雌雄異株植物の性差を検証する上で、対象とするモジュールレベルを考慮することは重要である。しかし、モジュール間での資源移動に関する先行研究は、サイズの小さな草本か木本の低次モジュールレベル(シュートや枝)を対象とした研究が殆どで、高次モジュールレベル(ジェネット全体)での資源移動における種間差や性差はこれまで十分に検証されてこなかった。そこで本研究では、複数の萌芽幹で株を形成するクスノキ科クロモジ属の雌雄異株低木、アブラチャンとシロモジの2種を対象種として、樹高約1mでの環状剥皮処理を用いた野外実験により、幹動態に対する株内の幹同士の生理的統合の影響を種と雌雄間で比較した。
その結果、アブラチャンでは、処理群の株内主幹の方が対照群より地際直径の肥大成長量が小さく、萌芽幹においても処理群の方が対照群より肥大成長量が小さい傾向が見られた。また、DBH>2cmの萌芽幹の肥大成長量において、雌では処理の効果が検出されなかったが、雄では処理群の方が対照群より小さかった。これらの結果から、アブラチャンでは株内の幹同士の生理的統合性が存在し、雌の萌芽幹は雄よりも生理的により早く自立することが考えられた。一方、シロモジでは、株内主幹の肥大成長量はアブラチャンと同じ傾向を示したが、萌芽幹においては処理の効果が殆ど見られなかった。また、アブラチャンの方がシロモジより樹高1.3m未満の萌芽幹の死亡率が低く、株内新規加入萌芽幹数が少なかった。以上の結果から、シロモジに比べてアブラチャンでは、萌芽幹生産を少なく抑える一方、株内主幹から萌芽幹に対する多くの資源移動により生残率を高めることで株の状態を維持していることが示唆された。