| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-014
ハクサンコザクラ(Primula cuneifolia var. hakusanensis)は他のサクラソウ科植物と同様に異型花柱性を持ち、2型を個体毎に示す。異型花柱性植物は自家不和合性・同型不和合性を持つことから、2型比の強偏は繁殖効率低下により個体群維持に影響を与えることが知られている。
また、本種は日本海沿いの多雪山岳域、特に湿性地に生育すると伴に、消雪後早期に展葉・開花することから、積雪環境と密接な関係にあることがうかがえる。一方で、日本海沿い山岳域は最終氷期以降も積雪量の増減を繰り返してきたと考えられ、それは今後の気候変動によっても引き起こされるであろう。消雪時期の傾度に沿って個体群構造を比較することから、積雪量変動下でどのように個体群を維持してきたのか考察したい。
各地点の雪解けは斜面上部から下部に進行し、最上部と最下部のプロットでは消雪時期が1ヶ月以上異なった。斜面下部では個体群密度が高くなる傾向にあり、低密度個体群と比較して若齢ロゼットが多く見られるが、死亡率も高く右肩下がりの齢構成だった。また斜面下部では開花率が高くなる一方で結果率は低下する傾向が見られた。異型花柱比率は斜面上下端において強偏しており、また全体の傾向としては個体群密度と負の相関を示し、低密度個体群では2型比の強偏が認められた。
積雪量が少なく生育期間の長い環境下では、低開花率のもとで高い結果率を示す一方で個体群密度も低いことから、細々と個体群を維持していると考えられる。しかし、低密度個体群では異型花柱比率が強偏する傾向にあり、長期的な展望では個体群維持に不利な状況にあることも示唆される。多雪環境で生育期間の短い環境下では高い開花率によって多量の種子を生産し、r-戦略的に個体群を維持していると考えられる。