| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-017

モンゴルにおける草原の持続性と遊牧

*Nachinshonhor G.U. (地球研), Jargalsaikhan L. (モンゴル科学アカデミー・植物研究所), Tadaki HIROSE (東京農大・国際食糧)

乾燥と寒冷気候が卓越するモンゴル高原では草原植生が広く分布している。自然草原を利用する遊牧が、この地域で長い歴史をもっている。モンゴル高原南部の中国内モンゴルでは、1950年代から人口が急激に増え、広い面積の自然草原が農地に変容し、1980年代から推進された草原の請負政策が伝統的な遊牧に終止符を打った。そして近年、草原の退化と砂漠化が当該地域のみならず、周辺の地域と国々にも深刻な環境問題をもたらしている。

われわれはモンゴル草原の持続性と遊牧の関係を明らかにするため、1999年から2010年にわたって伝統的な遊牧が営まれているモンゴル国にて調査を行った。この研究では、異なる草原(典型草原と乾燥草原)における植物群落の生産力と放牧圧のほか、調査地周辺の遊牧民に放牧している家畜の数と年間移動距離を調べた。その結果:

1.いずれの調査地でも群落の生産力が年によって有意に変動し、放牧圧がその変動にマッチしている。

2.放牧の影響が典型草原で多年生双子葉の種に、乾燥草原でイネ科の種により大きかった。

3.柵内群落の種の多様性が有意な年々変動を示したものの、放牧による有意な低下がなかった。

4.同じ数の家畜の年間遊牧距離が、典型草原より乾燥草原では長い傾向がった。放牧している家畜の数(ヒツジ単位)が2000頭を超えると年間移動距離が低下した。

上述の結果で、遊牧管理下の放牧圧が生産力の高い群落に集中していることが分かった。気候条件の影響で群落の生産力と種の多様性が低下した年に、放牧の回避が群落の現存量と種の多様性の更なる低下を防げ、結果的に草原の持続性に寄与していることが示唆された。


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