| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-019

タイ国カノム川マングローブ林に多発したLeptococcus sp.(コナカイガラムシ科)成虫の空中浮遊による林内拡散

*皆川礼子,河合省三(東京農大)

タイ国ナコンシタマラート県のカノム川流域には広大なマングローブが分布している.2005年3月,河口付近の林縁にLeptococcus属のコナカイガラムシが大発生し,すす病の併発により林縁のRhizophora全体が黒変した.多発は2006年には一時終息したかと思われたが,2007年以降点状に発生地を拡大させ2010年3月には河川全域に発生が確認されるに至った.

そこでマングローブ林内でコナカイガラムシの発生地拡大の要因を解明するために本種の生態,習性,発生経過,天敵相を調査した.

本種の雌成虫は長楕円形で体長2mm内外,扁平で無翅,体周縁から糸状のロウ質物を総状に分泌する.寄主植物はR. mucronataR. apiculataのみで,寄生部位は葉の裏面に限られる.卵胎生で繁殖し,年間数世代を繰り返し,発生が多いと葉の裏面全体に大きなコロニーを形成し,大潮の高位高潮線より上位から,樹冠に達するまで寄生が観察された.

2010年3月の調査において,多数の雌成虫が水面を浮遊しているのが確認され,空中浮遊による拡散が示唆された.コナカイガラムシ類の雌成虫による空中浮遊による拡散は, Miller and Denno (1977)による本種と類縁のPlotococcus eugeniaeについてのEugenia高木林における観察報告以外には例がない.カノム川の林縁にはRhizophoraの高木が密生しているため,雌成虫が空中浮遊することにより,高い確率で寄主に到達することができると考えられる.また,水面に落下したものは干満の水流により川を移動することでさらに広範囲な拡散を可能にし,これらは水面に接触した木を這い上がり,世代交代をしながら樹冠にまで到達するものと考えられる.この河川の林縁がRhizophoraで構成されていたこと,タイランド湾側のため潮の干満がゆるやかなことが本種の発生拡大を助長したと推察された.


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