| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) P3-034
樹木は植食者に対し多様な被食防衛能を有している。落葉広葉樹では、春先にすばやく葉を展開させ、被食防衛物質であるフェノール性物質を葉内に蓄積させることで、植食者からの食害に対応していることが報告されている。これまで樹木の個葉の被食防衛物質については主に定量実験が行なわれており、量的な季節変化を示すことが知られている。しかしながら、被食防衛物質は光合成産物であり十分に葉内に蓄積されていないと考えられる。また多様な植食者の食害様式が多様であり、この多様な食害様式に対応して被食防衛物質を葉内で局在させている可能性がある。発表者らは、これまでにブナの稚樹および成木を用いて、葉内のフェノール性物質の局在の季節的な変化およびブナの葉を食害する食葉性昆虫のセンサスを行なった。その結果、フェノール性物質の局在と食葉性昆虫の食害様式は対応している可能性が示唆された。しかしながら、植食者が葉のどの組織を食害しているのか、フェノール性物質の局在と対応しているのか、明らかにすることはできなかった。
そこで本研究では、落葉広葉樹において植食性昆虫の食害様式と葉の被食防衛物質の局在との対応を、組織化学的手法を用いて明らかにすることを目的とした。植食性昆虫の食害様式は、主に食葉性と潜葉性を対象とし、落葉広葉樹の食害痕の残る葉を採取し分析を行った。その結果、ブナの成熟葉においては、食葉性昆虫では表皮細胞と柵状組織を、潜葉性昆虫では柵状組織のみを食害していた。いずれの場合も維管束は避けるようにして食害していた。ケヤマハンノキの成熟葉では、主に葉肉細胞を食害していた。今後さらに分析を行ない、食害様式と被食防衛物質の局在の対応関係を明らかにしていく予定である。